烏薬順気散(ウヤクジュンキサン)の効果と副作用
烏薬順気散(ウヤクジュンキサン)は、脳卒中後の後遺症の改善や、脳卒中の予防などに用いられる漢方薬です。
専門医の指導のもとに使われることが多く、私たちが目にする機会はあまりないかもしれません。
本日は、烏薬順気散の効能・効果や副作用など、基本情報を紹介します。
烏薬順気散の効能・効果と適応症
烏薬順気散は、中国の宋時代の「太平恵民和剤局方」に記載されている漢方薬です。
主に、脳卒中後の後遺症の改善や、脳卒中(脳出血、脳梗塞)の予防に用いられる薬剤です。
具体的な適応症
- 脳卒中
- 脳出血
- 脳梗塞
上記が原因の、手足のしびれや麻痺・顔面神経の麻痺、曲げ伸ばしの不自由、感覚障害や言語障害などの後遺症の改善に使用されます。
また、四肢の痛み、肩こりにも適応しています。
烏薬順気散に含まれる生薬
烏薬順気散に含まれる生薬は10種類です。
烏薬(ウヤク)
クスノキ科テンダイウヤクの肥大した根を乾燥させたものです。
気のめぐりを改善する作用があります。また、止痛の効果があります。
陳皮(チンピ)
ミカン科ウンシュウミカンの果皮を乾燥させたものです。
気を整える作用があります。芳香性健胃、鎮吐、鎮咳作用もあります。
白僵蚕(ビャクキョウサン)
カイコガ科カイコの幼虫が白僵蚕菌の感染により白僵病で死んだ乾燥虫体。
解熱、抗痙攣、去痰作用があります。
麻黄(マオウ)
マオウ科マオウなどの地上茎を乾燥させたものです。
発汗、鎮咳、利尿作用があります。麻黄にはエフェドリンという成分が含まれ、交感神経を刺激します。
川芎(センキュウ)
セリ科センキュウの根茎を乾燥させたものです。
血流を改善し、血が滞ることによって起こる頭痛、疼痛を改善します。また、香りによって気うつを晴らす作用もあります。
桔梗(キキョウ)
キキョウ科キキョウの根を乾燥させたものです。
鎮咳作用、去痰作用、排膿作用、抗潰瘍作用があります。また、末梢血管拡張作用があります。
枳殻(キコク)
ミカン科ダイダイまたはナツミカンなどの成熟直前の果実を乾燥させたものです。
理気、健胃作用があります。また、便通を改善する働きもあります。胸腹部のつかえ、腹痛、膨満感にも用いられます。
白芷 (ビャクシ)
セリ科ヨロイグサの根を乾燥させたものです。
解表作用、止痛作用があります。またたまった膿を排泄するのを促す働きもあります。
甘草(カンゾウ)
マメ科のカンゾウの根茎を乾燥させたものです。
疼痛緩和作用と、炎症を和らげ、緊張を緩める作用があります。
生姜(ショウキョウ)
ショウガ科ショウガの根茎です。蒸して乾燥させたものは「乾姜」といい区別します。
芳香辛味性健胃、食欲増進、発汗などに効果があります。
脳卒中とは
脳卒中には、主に脳梗塞と脳出血があります。
脳の血管が詰まったり、破れたりすることにより、細胞に酸素や栄養供給ができなくなって細胞が壊死してしまう病気です。
脳梗塞について
脳を養う血管が詰まることによって起こります。
次の3種類があり、脳卒中での死亡の60%以上を占めます。
- アテローム血栓性梗塞:脳の太い血管の内側にどろどろのコレステロールの塊ができ、そこに血小板が集まることで動脈をふさぐタイプ
- ラクナ梗塞:脳の細い血管に動脈硬化が起こり詰まるタイプ
- 脳梗塞:心臓にできた血栓が流れてきて、脳の血管をふさいでしまうタイプ
脳出血について
脳の中の細い血管が破れて出血し、神経細胞が死んでしまうタイプのものです。
脳卒中死亡の25%を占めます。
高血圧や、加齢が原因で血管が弱くなることが原因で血管が破れる場合が多いです。
日中に活動している際、頭痛やめまいが起こり、後遺症として半身麻痺、意識障害などが起こります。
脳卒中の主な原因
脳卒中は、動脈硬化や血栓をつくる因子すべてが危険因子となります。
なかでも、高血圧は動脈硬化を促進させ、血管に損傷を与えやすいため、注意が必要な生活習慣病です。
このほかにも、高脂血症、糖尿病、狭心症や不整脈などの心臓病、高尿酸血症なども大きく脳卒中に関与しています。
これらの原因となる、喫煙、飲酒、肥満、ストレスなども危険因子となります。
脳卒中による後遺症
- 視覚障害
- 感覚障害
- 聴覚障害
- 構音(こうおん)障害
- 不随運動(ふずいうんどう)障害
- 嚥下障害
- 片麻痺
- 排泄障害
- 失語症
- 失認症
- 失行症
脳卒中の漢方的治療
脳卒中の漢方薬治療としては、血液と血管を健全な状態に改善することを目標とします。
血液は、人間の体の組織や細胞活動には不可欠な酸素と栄養素の供給と、代謝物を除去する作用を行っています。
この血液循環、つまり血のめぐりがスムーズにいかなければ、血管に血の塊や血管壁に老廃物が蓄積し、血の流れが詰まったり、止まったり、出血したりして脳卒中を引き起こします。
その原因を、漢方医学では「血のめぐり」が悪くなる「うっ血」としてとらえます。
このうっ血を改善して血の流れをよくし、体全体の血液の流れを正す治療を漢方薬治療では行います。
脳血管疾患への基本的な作用としては、血中脂肪の低下、血圧の調整、血管壁の強化、コレステロール代謝の調節、代謝機能の強化、知覚・神経機能の回復などがあります。
今回紹介している「烏薬順気散」は、脳卒中後の諸症状を改善するのに効果的な漢方薬です。
烏薬順気散に含まれる成分の中で、麻黄と川芎の組み合わせは、「鎮痛、身体麻痺、気のうっ滞による神経痛・関節痛・筋肉痛の緩和」に効果があります。
また、烏薬、陳皮、枳殻の組み合わせは、「言語障害の改善、胃腸疾患」に効果が期待されます。
さらに、白芷と白彊蚕の組み合わせは、代表的な後遺症である「顔面神経麻痺」に効果があるとされています。
副作用について
烏薬順気散には、それほど強くあらわれる副作用はありません。
しかし、アレルギー症状として発疹、発赤、かゆみなどの皮膚症状があらわれることがあります。
また、配合生薬の地黄により、人によっては胃の不快感やもたれ感、食欲不振、吐き気などを感じる人もいます。
異変を感じた際は医師・薬剤師などの専門家に相談し服用するようにしてください。
まとめ
今回は烏薬順気散(ウヤクジュンキサン)についてまとめました。
この漢方薬は、主に脳梗塞、脳出血、脳卒中などの予防と、脳卒中後の後遺症の改善に用いられる漢方薬です。
処方された際には、医師の指導のもと、適切に服用しましょう。
なお、脳卒中にならないように普段から生活習慣に気を付けることは非常に大切です。
高血圧や高脂血症、糖尿病などは脳卒中を含むその他の疾患の重大なリスクファクターになります。
適度な運動と、栄養の偏りのないバランスの良い食事をあわせて取ることをこころがけましょう。