越婢加朮附湯(エッピカジュツブトウ)はどんな漢方薬?越婢加朮湯との違い
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)は、関節の痛みを改善するのに役立つ漢方薬です。
越婢加朮附湯(エッピカジュツブトウ)は、越婢加朮湯に「附子(ブシ)」が加わった漢方薬です。
どんな違いがあるのでしょうか?
効果、安全性など基本情報と合わせて紹介します。
越婢加朮附湯の効能・効果
越婢加朮ブ附湯は、比較的体力がある方が対象で、
- むくみ
- 関節リウマチ
- 関節痛
- 湿疹
このような症状に用いられます。
この効果・効能は、越婢加朮湯と非常に似ています。
それでは何が違うのでしょうか?
それは、配合生薬に「附子(ブシ)」が入っているかいないか、です。
それでは、附子について確認してみましょう。
附子(ブシ)はどんな生薬?
基原
キンポウゲ科ハナトリカブトまたはオクトリカブトの塊根を加工したものです。
正確には、茎に直結している母根は「烏頭(うず)」、そこから伸びた子根が「附子」となります。
主要成分
■アルカロイド
アルカロイドとは、植物体に含まれる窒素を含む塩基性の有機化合物です。
ニコチン、コカイン、カフェインなどで、毒にも薬にもなるという薬理作用が特徴的です。
附子はその強い毒性で知られています。
その毒は、根だけでなく茎や花にも含まれています。
漢方薬として使われる附子は、毒性を抑える加工がされているため心配はいりません。
しかしながら、作用の鋭い下薬です。
体質に合わなければ副作用が出やすくなりますし、妊婦には禁忌となっている生薬です。
狂言の「ぶす」
狂言の演目としても登場する「附子(ぶし)」は、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ある家の主人が、留守の間に貴重な砂糖を弟子たちに食べられてしまわないように、「桶の中身は猛毒の附子で、風下にいるだけで死んでしまう」とウソを言って出かけます。
弟子たちは、怖いもの見たさでその桶を覗き、それが砂糖とわかり、すべて舐めてしまいます。
さらには、主人が大切にしている掛け軸と茶碗をわざと壊してしまいます。
その後、主人がかえってくると、「大事なものを壊してしまったお詫びに、死のうと思って附子を食べつくしたのに死ねません」と、うまい言い訳をする、という面白い話です。
この話にあるように、附子はその強い毒性で知られています。
そのまま口にすると神経を麻痺させて、呼吸困難、心肺停止に至るほど強力な作用を有します。
ちなみに、附子の毒で顔が麻痺してしまうと、無表情のおかしな顔になります。
それを指して「ブス」と言ったのが、いわゆる美人の対義語で言われる「ブス」の語源となっているようです。
附子の特徴
■大辛:辛味は身体をあたため、発散に働きます。
■大熱:大きなエネルギーを持ち、温める強い力を持っています。
このように、体を温める働きが非常に強い生薬です。
身体の各部をつないで全体を統一している経路を生じさせ、体内のエネルギーの循環を良くするように働く、体を活発化するようなエンジンのような作用です。
強心、散寒、鎮痛、利尿作用があります。
代謝が悪く、自力で身体を温める力のないような方には特に有効な生薬です。
逆に、体格が良く、暑がりな方は向きません。
動悸、頭痛、血圧上昇などの副作用を引き起こすため使用はしないことが重要です。
附子が配合された主な漢方薬
■麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)
風邪をひいても、熱が出ないような体力のない高齢者にも良く使用する風邪薬としての処方です。
■桂枝加朮附湯(ケイヒカジュツブトウ)
関節痛などの、冷え原因となる体の痛みに使います。
■八味地黄丸(ハチミジオウガン)
冷えて疲れやすいタイプの方に用いられます。足腰のだるさ、しびれ、夜間尿などに有効な漢方薬です。
越婢加朮附湯と越婢加朮湯
上記で確認したように、越婢加朮附湯は越婢加朮湯に附子を加えた処方です。
附子は、神経痛や冷えなどに使用されます。
したがって、越婢加朮湯が適応となる《関節の熱や腫れ、痛みを発散したい》といった症状に、寒がり、手足の冷え、吐き気、水瀉性の下痢、めまい、動悸(どうき)などの症状がある場合は、越婢加朮附湯の方が適していると言えるでしょう。
越婢加朮附湯に含まれる生薬
附子(ブシ)以外の生薬については以下の通りです。附子を含む7種類が配合されています。
麻黄(マオウ)
マオウ科シナマオウの茎を乾燥させたものです。
発汗作用、鎮咳作用があります。
また、気管支のけいれんを抑制する作用があります。
交感神経や中枢神経を興奮させる作用のあるエフェドリンが含まれているのも特徴です。
石膏(セッコウ)
天然の含水硫酸カルシウムです。
解熱作用、鎮静作用、消炎作用があります。
蒼朮(ソウジュツ)
キク科ホソバオケラの根を乾燥させたものです。
体内の水分代謝を改善する作用があります。
また、消化機能を高める働きもあります。
大棗(タイソウ)
クロウメモドキ科ナツメの果実を乾燥させたものです。
大棗は大きなナツメという意味です。
胃腸の機能を整え、精神を安定させる働きがあります。
また、筋肉の緊張による疼痛や腹痛などの痛みを和らげます。
甘草(カンゾウ)
マメ科のカンゾウの根茎を乾燥させたものです。
疼痛緩和作用と、緊張を緩める作用があります。
生姜(ショウキョウ)
ショウガ科ショウガの根茎を乾燥させたものです。
身体を温め、消化機能を整える働きがあります。
飲み方
1日2~3回に分けて、食前または食間の空腹時に服用します。
急性疾患なら症状が続く期間、慢性疾患で服用であれば、2~3か月以上を目安に服用します。
越婢加朮部附湯は、急性疾患に使用すると比較的効果が早く実感でき、また他の処方との組み合わせもしやすい漢方薬です。
年齢、体重、症状により適宜増減します。また、高齢者には減量したり、胃もたれする場合には他の漢方薬を併用することもあります。
越婢加朮附湯を服用する際の注意点
主な副作用
主な副作用としては、発疹、発赤、搔痒、不眠、発汗過多、動悸、全身脱力感、精神興奮、食欲不振、胃部不快感、吐き気、嘔吐、軟便、下痢、排泄障害などがあります。
また、他の漢方薬と同様に重大な副作用として以下のものが報告されています。
ごく稀にこのような副作用が発生しますので、服用開始後は体調の変化に気を付けておいてください。
- 偽アルドステロン症(血圧上昇、むくみ、手足のしびれ、ふるえ、脱力などの症状があらわれます。)
- ミオパチー(脱力感、手足のけいれんや麻痺などが初期症状としてあらわれます。)
飲み合わせ・食べ合わせの注意
附子が含まれるため妊婦は禁忌です。
また、麻黄が含まれているため、エフェドリン類含有製剤、甲状腺製剤(チラージン)、カテコールアミン製剤(アドレナリン、イソプレナリン)、テオフィリン(テオドール)を併用する際は注意必要です。
また、甘草の大量服用によりむくみを生じたり、血圧が上がったりする可能性があります。甘草含有製剤、グリチルリチン酸及び塩類を含有する製剤を服用している際も、注意してください。
まとめ
今回は、越婢加朮附湯(エッピカジュツブトウ)について紹介しました。
関節の熱や腫れ、痛みを発散するのに使用される漢方薬であり、名前の似ている越婢加朮湯に、「附子(ブシ)」が加わった処方です。
「附子」は、神経痛や冷えに効果があり、寒がり、手足の冷え、吐き気、水瀉性の下痢、めまい、動悸などの症状がある場合に使われます。
漢方薬は名前は似ていても、配合されている生薬によって少しずつ効果が異なってきます。
自分に合ったものを見つけ、長く付き合っていけると良いでしょう。